*このレポートは、「メディアミックスによるNPO・ボランティア広報事業」(宮崎県社会福祉協議会委託事業) の一部です。
【お話】 アジア砒素ネットワーク代表  上野 登さん

高千穂町土呂久、木城町松尾の砒素中毒症患者への支援から始まり、宮崎から発信。

 アジア砒素ネットワーク(ANN)は、 慢性砒素中毒で苦しんでいる、アジア各国の人々の支援と救済に取り組んで います。

 「アジア砒素ネットワークを立ち上げたきっかけは、私が宮崎大学に在職中、岩戸小学校の先生と話をしたことに始まります。草木の生えていない鉱山跡地で遊ぶ子供達を見ていて健康に影響はないのだろうかと心配になった先生が自分で始めた調査と訴えを聞いたのです。」と、代表の上野 登さん。

 第 1 次世界大戦後、銀を産出していた土呂久鉱山の跡地で、鉱石に含まれる成分のひとつである砒素 * (当時は亜砒酸と呼 ばれていた)を取り出す作業が行われていました。致死量 0.1 〜 0.3mg という猛毒を製造するのに、石を積んで作った登り釜 で鉱石を焼き、煙に混じって出てきた砒素が焼き釜の壁に付着 した物を採取していました。
付着しなかった砒素は当然、煙と一緒に煙突から大気中に流れ出してしまいます。しかも、ここの労働者は素手で鉱石を採取したり、頭巾と手袋といった軽装で釜に付着した猛毒の砒素を採取したり、鉱石の焼き殻は目の前の川に捨てられたりしていたのです。煙と一緒に流れ出したものは屋根や屋内に付着したり、鉱石から流出したものは生活水に混入したりして、労働に従事していた人だけでなく、そこで暮らしている人々や子供達の健康を長期にわたりむしばんでいきました。

 アジア砒素ネットワークの先駆け、被害者の会を立ち上げて支援をはじめ、 14 年もの裁判闘争の後、最高裁で 1990 年に和解をし、一応の決着はつきましたが、もちろん現在も全て解決した訳ではなく、現在でも年に 2 〜 3 人の慢性砒素中毒患者が出ているのです。

* 砒素 … (三酸化砒素 As2O3)
致死量 0.1 〜 0.3mg の猛毒。農薬、医薬品、防虫剤、顔料、毒ガスに使われた

・砒素が人体に及ぼす影響
 砒素中毒症とは …
 砒素が混入した水を飲み続けると、全身に中毒症状が現れ、やがてはガンを発症します。

・角化症
 手のひらや足の裏の皮膚が硬くなり、ごつごつとして触れると痛みを伴うので、手を使う仕事はもちろん、立っていることもつらくなります。安全な水を飲み、角化用軟膏を塗る必要があります。

・ガン
 ガンは早期に発見し治療しなければ、やがては命をむしばみます。ガンは全身に発症します。写真は皮膚ガンの例で、切除手術と安全な水を飲むことで、患者は健康を取り戻すことができました。

その他の症状
 初期は典型的な症状は皮膚に現れますが、呼吸器、循環器、
泌尿器、肝臓、神経などもおかされていきます。
 
当時の亜砒焼き窯
足裏の角化症
手のひらの皮膚がん
頭頂部の皮膚がん

【アジア砒素ネットワークの活動】

・土呂久の悲惨な経験と貴重な体験を生かした活動

 土呂久の経験と実績を認められ、トヨタ財団からの資金援助を受け、医療協力、技術支援、人材育成など活動をしてきましたが、 2001 年からパートナーシップ事業として、国際協力機構( JICA )からの委託・資金援助を受けて、アジア各国で砒素中毒に苦しむ地域への支援、研究、交流を拡大しています。
 現在もアジアの各国に地下水砒素汚染が広がっていて、現在最も深刻な問題を抱えているバングラディシュでは 4 本に 1 本の割合で井戸の水は安全基準値を超える砒素が含まれているものがあり、約 3500 万の人々が危険にさらされている状態なのです。そこで、現地の人たちと力を合わせ、安全な水を汲み上げる深井戸を掘削したり、安全な水を供給する濾過装置を作ったり、水質調査を行ったりしています。

  現在、 ANN はバングラディシュでこんな活動をしています
● 医療協力
 定期的に患者宅を訪問。症状の経過を観察し、栄養指導などのアドバイスや相談、治療費や薬、手術などの医療費を援助し ています。
● 「安全な水」の供給
 安全な水を供給できる深井戸の掘削、濾過装置の設置、水質検査の機会など、地域に適した条件の代替水源の確保と技術支援、資金援助をしています。
● 啓発活動
 「ゴンビラ」と呼ばれる伝統芸能を取り入れ、現地の人たちに分かりやすく砒素の怖さを伝え、安全な水の必要性を教え、地域意識を高めています。
● 住民参加
 住民が主体で地域の砒素汚染地図を作り、それをもとに安全な飲料水源をどこに設置するか、話し合って決めていきます。

栄養指導の様子
家庭用砒素除去装置
深井戸の掘削
ゴンビラ
・今後の活動

 大学の研究と NPO の研究を一緒に行えるようにし、連携をとりながら被害流域別の研究センターを作り、ネットワーク化していきたいと考えています。
 現在は JICA やロータリークラブなどからの援助や支援金で国際的な活動をしていますが、今まで以上に活動や研究も広げつつ、発足当時のような市民活動にも今後力を入れていきたいです。身近な、草の根的な活動が大きな原動力や活動資金に繋がっていくものですから … 。

支援や援助を継続していくには、やはり「資金」が必要ANN の活動に賛同し支援して頂ける方々を募集しています!!

会員登録
会員になると …
 年 3 回発行の会報「 YUI 」で活動内容を報告し、各種イベントの案内をします。
■ 年会費
・正会員 * (個人) …5,000 円
・賛助会員(個人・団体) … 一口  3,000 円
  * 正会員には総会での議決権があります。

寄付
■ 一般寄付
ANN のいろいろな活動全体を支える為に使います
■ 友好の水活動
安全な水を供給する施設を作る為に
例))池の水の浄化装置 …200,000 円( 70 世帯をカバー)
■ 医療協力
砒素中毒患者の治療薬・手術費用の為に
例))角化症を緩和する軟膏 1 ヶ月分 …400 円( 1 人)

会費・寄付の受付を随時行っております
ゆうちょ銀行振替貯金  01980-8-6026
口座名義 アジア砒素ネットワーク

アジア砒素ネットワーク事務所

 〜お問い合わせ・連絡先〜

 アジア砒素ネットワーク( ANN )
 代表 上野 登
 住所  880-0014  宮崎市鶴島 2-9-6  みやざき NPO ハウス 208 号
 会員数 専門員 8 名 事務 2 名 
 電話  0985-20-2201
 FAX   0985-20-2286
 URL   http://www.asia-arsenic.jp
 


ライターズEYE
 宮崎発のこんな大きな、素晴らしい事業があるとは、正直、私は知りませんでした。「土呂久で砒素被害で苦しむ人を助けたい」という気持ちがアジア全体に広がって、研究や医療援助やいろいろな活動ができているなんて…、本当にびっくりしました。
 「今では活動がアジア全体に広がり、知名度や事業が大きくなるのはいいことだけれど、被害者の方々の高齢化もあって、地元の人にはあまり知られていないのが今の現状です。また昔のように地元の活動にも力を入れて行きたいです」と言われていました。
 ふだん、こういう事実にはなかなか触れる機会がないのが現実ではないでしょうか?この機会に私も意識的に興味を持ったり参加したりしていきたいと思いました。高齢化の波がここにも押し寄せているのも、また実感しました。
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